弁護士錦見 輔
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値上げ交渉を法的に組み立てる

値上げを通せるかどうかは、会社の存続に直結します。そして値上げ交渉は、法律論だけでも、根性論だけでも動きません。

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「言いにくいので、もう少し様子を見ます」——この判断が、いちばん高くつきます。

原材料費、労務費、電力費が上がっているのに、販売価格が据え置きのままであれば、利益はそのぶん確実に削られます。しかも一度失った利益は、後からまとめて回収できません。

値上げ交渉を「気合い」の問題にせず、手順として組み立てるにはどうすればよいか。私が実際に踏んでいる順序をご紹介します。

手順1 契約書の価格条項を確認する

最初にやるべきは、交渉ではなく基本契約書を読むことです。確認するのは1点だけです。

「コストの低減に努める」とだけ書かれていないか。

この書き方は一方通行で、値上げの協議を求める根拠になりません。逆に「コストの低減または増加に応じて協議する」となっていれば、それが交渉の出発点になります。

条項がない場合でも、諦める必要はありません。継続的な取引では、事情の変更を踏まえた協議の申し入れ自体は当然に可能です。ただし根拠のある要求と、お願いベースの要求とでは、相手の社内での通り方がまったく違います。まず自社の立ち位置を正確に把握することが、交渉の質を決めます。

手順2 根拠となる数字を揃える

相手の担当者は、社内で決裁を取らなければなりません。つまり相手が上司に説明できる材料を、こちらが用意するのが実務です。

  • 原材料の価格推移(公表指標や仕入実績)
  • 労務費の上昇(最低賃金の改定、賃上げの実績)
  • エネルギー費の変動
  • 影響額の試算(品目別・年間ベース)

「厳しいので上げてください」では通りません。「この品目について、原材料が○%上昇し、年間○円の影響が出ています」という形にして初めて、相手の決裁ラインに乗ります。

手順3 法令上の後ろ盾を確認する

取引の力関係に差がある場合、法令が味方になることがあります。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、親事業者が下請事業者に対し、通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること(買いたたき)を禁じています。また、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第9項第5号は、優越的地位の濫用を不公正な取引方法として規制しています。

コスト上昇分の協議に応じないまま従来価格を押し付ける行為が、これらに触れる場合があります。※下請法は近年改正の動きがあり、適用範囲・規制内容は要確認です。また、価格転嫁に関する行政の要請・指針も随時更新されますので、実際のご相談時に最新の内容を確認します。

もっとも、これらを交渉の場で振りかざすのは、多くの場合で悪手です。取引を続けたいのであれば、法令は「こちらにも言える立場がある」という自覚として持っておき、テーブルでは数字で話す。使うのは、話が完全に止まったときだけです。

手順4 いつ、誰に、どう言うか

ここが、法律書には書かれていない部分です。

  • 誰が判断するのか——窓口の購買担当者に決裁権限がないことは珍しくありません。どの役職で決まるのかを把握します
  • いつ言うのか——期の切り替わり、年度の見積提出、新規の型番の立ち上げ。相手が価格を動かしやすいタイミングがあります
  • 代替可能性はあるか——自社が抜けた場合の相手の困り方を、こちらが正確に把握しておく必要があります
  • 書面で残すか——口頭のやりとりだけで終わらせず、申し入れの事実と時期を残します

交渉過程のやりとりも、契約の解釈材料になります

交渉中のメールや提示資料は、後に契約内容の解釈をめぐって参照されることがあります。やりとりの残し方そのものが、実務上のリスク管理です。「この表現で送って大丈夫か」というご相談も、遠慮なくお寄せください。

ケンカをするのが目的ではない

値上げ交渉のご相談で、私がまずお伺いするのは「その取引先との関係を、今後どうしたいか」です。

取引を続けながら採算を確保したいのか。この機会に依存度を下げたいのか。撤退も選択肢に入るのか。ここが決まらないまま交渉を始めると、途中で腰が引けて、かえって条件が悪くなります。

私は、書面の作成だけでなく交渉の同席もお引き受けしています。弁護士が同席することそのものが、相手の社内での扱いを変えることもあります。一方で、弁護士を出すべきでない場面もあります。その見極めも含めて、一緒に考えるのが顧問弁護士の役割だと考えています。

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