製造業法務
図面が読めない弁護士には、危険負担の移転時期も、ラインの止まり方も設計できません。現場から考える製造業法務。
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※ 写真はイメージです。
私は弁護士になる前、金属・金属部品商社の人事総務担当役員でした。
取引基本契約の改訂で得意先と交渉し、長期在庫の買上げの覚書を作り、外部の設計者との業務委託契約を設計しました。有期契約社員の更新が争点になったこともあります。
いずれも、法律の条文を知っているだけでは動かせない案件でした。ディスコン(生産終了品)の扱い、危険負担がいつ移るのか、瑕疵が見つかるまでの期間、不可抗力で工場が止まったときに誰が損をするのか —— 契約書のその一行が、現場では何百万円、何千万円の差になります。
その経験を、いま弁護士として製造業のみなさまにお返ししています。
製造業で問題になりやすい5つの領域
1. 取引基本契約と個別契約
製造業の取引は、基本契約+個別契約の二層構造で動き、基本契約の一行が数年間すべての取引に効いてきます。特に確認するのは次の点です。
- 支払条件と、支払金額が確定する時期
- 個別契約がいつ成立するのか(注文書の送付か、請書の返送か、黙示の承諾か)
- 販売価格の合意方法と、改定の手続
- 危険負担が移転する時期(出荷時か、検収時か)
- ディスコン(生産終了)時の取扱いと、最終発注の期限
- 契約不適合(旧・瑕疵担保)の責任期間
- 不可抗力条項がカバーする範囲
- 知的財産権の非侵害条項と、その保証範囲
また、下請代金支払遅延等防止法(下請法)や、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第9項第5号の優越的地位の濫用との関係も、取引の力関係によっては検討が必要です。※下請法は近年改正の動きがあり、適用範囲・規制内容は要確認です。
「自社に甘く、相手方に厳しい」だけでは通らない
相手が大手で力関係に差があれば、自社有利の条項は通りません。どこを取り、どこを譲るか——交渉の順序の設計が仕事の中身です。交渉過程のメールも契約解釈の材料になり得るため、残し方から注意します。
2. 品質問題・契約不適合責任
納品した製品に不具合があった、あるいは仕入れた部品の不良で自社の製品が止まった。製造業でもっとも金額が動く場面です。
2020年施行の改正民法により、従来の瑕疵担保責任は「契約不適合責任」として整理されました。買主は、履行の追完請求(民法第562条)、代金減額請求(民法第563条)、損害賠償請求および契約の解除(民法第564条、第415条、第541条等)を求めることができます。不良品の損害が一方的に相殺されて回収できない——そうした事態を防ぐ鍵は、契約段階の取り決めにあります。
製品の欠陥により第三者に損害が生じた場合には、製造物責任法(PL法)第3条に基づく責任も問題となります。
3. 値上げ・値下げ交渉
値上げを通せるかどうかは、会社の存続に直結します。効いてくるのは、価格改定条項の書き方です。
条項の一語が交渉力を変える
「コスト低減に努める」だけでは一方通行。「低減または増加に応じて協議する」と改めれば、値上げ協議の根拠になります。締結時に些末に見える一語が、数年後の交渉を決めます。
値上げ交渉は法律論だけでは動きません。相手の調達がどこで判断するか、代替先はあるか、いつ言うか。同席と書面作成の両面で関与します。
4. 図面・技術情報・営業秘密
良いアイデアは、誰のものになるのか。外部と設計を進めるとき、これを決めていないと必ず紛争になります。
- 図面の著作権・意匠権の帰属と、二次利用の可否
- 共同開発で生まれた発明の権利帰属と、実施の条件
- 秘密保持契約(NDA)の対象範囲と、退職者への効力
- 不正競争防止法上の営業秘密(同法第2条第6項)として保護されるための管理体制
「アイデアを盗用された」というクレームは、金銭だけでは解決しないことがあります。帰属は認め、対価を払って使わせてもらう——その着地を契約の言葉にできるかが分かれ目です。
5. 事業承継・工場の譲渡
後継者がいない、工場をどう分けるか、自社株式を買い取りたい。製造業の承継は設備・技術者・取引先が一体のため、単純な株式の移動では終わりません。
- 株式譲渡と事業譲渡(会社法第467条)の選択
- 自己株式の取得(会社法第156条以下、特定の株主からの取得は同法第160条)
- 親族間の譲渡における価格の合理性と、他の相続人との関係
- 設備・不動産の担保関係の整理
- 主要取引先との契約上の地位の承継(チェンジ・オブ・コントロール条項の確認)
※ 税務上の取扱いは税理士・公認会計士と、社会保険関係は社会保険労務士と連携して進めます。どの専門家に何を頼むべきかの切り分けも、こちらでお引き受けします。
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